SDGs COLUMN北海道教育大学SDGs

釧路校 野村先生インタビュー

  • 1.貧困をなくそう
  • 2.飢餓をゼロに
  • 3.すべての人に健康と福祉を
  • 4.質の高い教育をみんなに
  • 8.働きがいも経済成長も
  • 10.人や国の不平等をなくそう
  • 11.住み続けられるまちづくりを
  • 17.パートナーシップで目標を達成しよう

釧路校 地域学校教育実践専攻 地域環境教育実践分野

博士(農学)・教授 野村 卓 先生

専門分野:環境教育学, 社会教育学, 環境学, 家政教育学, 教育社会学
 (キーワード:食育・食農教育、防災教育、動物園教育、湿地教育、環境社会、共生教育)

研究内容:①教育社会学研究領域<食や農を通じた地域再生と学校連携 > ②家政教育研究領域 <味覚教育を中心とした食生活創造のための教材開発>  ③食育・食農教育研究 <フードマイレージ(社会科)教材開発や味覚継承、親子の食農共育体験事業による親子の相互教育に関する研究、食育思想形成に関する研究など>  ④湿地教育研究  ⑤防災教育研究  ⑥動物園教育研究

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―野村先生の経歴を教えてください

野村:私はもともと教育関係の仕事ではなくて、農業技術職として埼玉の県庁に10年近く勤めていたんです。そこで農業後継者養成の仕事に興味を持つようになり、県庁をやめて東京農工大学の大学院に入りました。その後、縁があって2011年4月から釧路校に来ました。

―釧路校の魅力はどこにありますか

野村:現場に近いことですね。東京や埼玉だと、やはり現場とは距離感がある。第一次産業を基点とした地域の中にこういう大学があるということの意味は大きいです。研究においても教育においてもとても良いフィールドですね。

食育、防災教育など地域課題に対応するテーマを研究

―具体的にはどんな研究や学びなのでしょう

野村:持続可能な食や農に関する生活環境教育の研究、社会教育領域において防災教育、湿地教育など、さまざまな地域課題に対応します。例えばもう10年以上続けている食育の授業で「親子で体験するアグリチャレンジ」というものがありますが、2017年には農林農林水産省が主催している食育の表彰も受けました。

学生と地域の方が一緒に委員会を作って、夏場は農業体験、冬場は食の体験を行います。例えば毎年味噌作りを行ってきたんですが、麹から手作りして半年ぐらいかけて味噌を作るんです。伝統食というのは基本的に手間がかかるんですよね。将来の仕上がりに希望を持ってみそを仕込んだんだけれど、適当に作ってしまうと途中でカビてしまってものにならないということもあるわけです。どうなるかわからないけれど、完成が半年先1年先になるけれど、常に未来を見てやっていかなきゃいけないのが伝統食の基本的なスタイルなんですよね。

そういう時間軸の中で生きていくということが、持続性を考える時に非常に大事な感覚の一つであるというようなことを、学生も子どもたちも感じていくんです。

「親子で体験するアグリチャレンジ」を学生と地域が一体となって企画運営

―防災教育というのはどんな学びなのでしょうか

野村:東日本大震災の時、東北地方で学校や社会教育施設があるにも関わらず、子どもたちを救えなかったという大きな反省があります。その中で、全国の社会教育の研究者を集めてグループをつくり研究を重ねています。釧路校では、釧路総合振興局と防災教育の包括協定を結び、避難所の運営や地域防災の知識や能力を持った人の養成などを地域で講座を開いて行なっています。

―学生は、その学びを卒業後に先生となって生かしていくのですね

野村:そうですね。学校が避難所になっていることが多い中で、災害に遭った時に学校を開放して避難民を受け入れることと同時に、学校は基本的には子供を育てる場なので、1カ月か2か月ぐらいにしたら教育機関に戻っていく。このイメージを教師は持っていなきゃいけないんですね。災害時には地域住民、子どもたちを守りながら、日常の学校生活に戻していくことができる、そういうノウハウを持った教員の養成が必要です。

―学生には4年間でどのような学びを期待していますか

野村:「探究(たんきゅう)と省察(せいさつ)」ですね。探究とは、問題を発見して問題を解決する力です。省察は、結果をかえりみてさらに深く考察していくこと。今は皆、問題を解くのは得意なんですよね。課題を解決するのは得意なんです。ただ、根本的に問題を発見するというところが、なかなかできないんですよ。小さい頃から常に問題を与えられて、それをどう解決するかという訓練をずっとされ続けてきたからでしょうね。

大学の4年間で「問題を発見する力」をぜひ身につけて欲しいんです。教師になった時にも、自分の受け持ちの子どもに向き合い、子どもの問題を発見し、解決していかなければなりません。この基本的な構造を4年間でしっかり理解して欲しいと思います。

探求と省察の力をつける4年間の学び

ー持続可能な社会の実現にも「問題を発見する力」が必要不可欠ですね。

野村:その通りです。持続可能な開発目標SDGsの実現に向けて注意しなければいけないのは、17の目標が「課題」として与えられてしまっていると思い込んでしまうと、もう発見ができないわけですね。適当にネットサーフィンをして何かが問題だと言われていることを持ってきて、それを解決するということには一生懸命になるけれど、それが本当に深刻な問題なのかどうかも含めたことの検討ができないまま受け売りでやってしまうようなことは避けなければなりません。釧路校のプロジェクト研究という授業では、そもそも「調べる」ということはどういうことか、から始まります。学生たちには探究と省察の力をしっかり身につけて、卒業していって欲しいと願っています。