札幌校 安井先生インタビュー
札幌校 教員養成課程 特別支援教育専攻 教授
安井 友康先生
専門分野:特別支援教育、社会福祉学、スポーツ科学
特別支援教育、障害児者福祉、アダプテッド身体活動学(アダプテッド・スポーツ)
研究内容:障害児者がよりいきいきと暮らすためには、どうすればいいのか。特に余暇活動やスポーツの支援方法について検討している。またそれを支えるための地域福祉情報に関する研究ならびに地域福祉資源のネットワーク化に関して研究している。
―障害者の余暇活動、スポーツ活動の研究を始めた経緯を教えてください
安井:横浜国立大学の大学院で特別支援教育を専攻した後、神奈川県の社会福祉施設の現場で6年ぐらい働いていました。知的障害、肢体不自由の大人の方と子どもたちもいて、大きな施設でしたね。この時の経験が、今の研究内容や学生たちに伝える内容につながっていることが多いですね。
休日や長期の休みに障害のある子どもたちが行く場所がない。夏休みは子ども達にとって本来楽しみがたくさんあるものと思いますが、障害のある子どもたちは何をしていいかわからない。現場にいる時からそういう声をよく聞いていて、余暇の支援活動を当時から行なっていたんです。それをその後の研究につなげてきたということですね。
―障害者の余暇活動やスポーツ活動という研究は古くから行われてきたのでしょうか
安井:障害のある方の場合、働くことや生活への支援が主になってきたために、余暇活動の支援というのはあまり重要視されていなかったのが現状です。余暇は遊びであり、遊ぶことを支援するのはどうなの、という捉えられ方をされてきたという事実はあると思います。でも最近の考え方として、余暇が充実しているほど一生懸命働いたり、あるいは生活の張りや目標などに結びつくということがだんだんわかってきました。人生の楽しみとしての余暇の過ごし方をどのように支援し、その環境をどのように整備するかということの重要性が増してきています。研究としては以前からありましたが、だんだんその重要性が世界的にもクローズアップされてきたという状況ですね。
―学生たちはどんなことを学ぶのでしょうか
安井:もちろん特別支援の専攻ですので、授業で教える内容やコミュニケーションの方法、働くことへ支援などをベースとして学び、日常的な身体活動や健康につながる支援の方法などを学びます。札幌校には付属小中学校がありますので、障害のある子どもたちも含めて日常的に子どもたちと実際に触れ合い、そこからフィードバックして何が課題かということを見つめ、また学びにつなげていくことができる非常にいい環境です。
―この部屋は何をするところなのですか?
安井:ここは、「小体育館」と呼んでいる部屋で、地域の障害のある子どもたちが来て体を動かし、特別支援を学ぶ学生たちが実際に指導をしたりする場所です。特に特別支援学校では遊戯室がつくられている場合があるんですが、実際には十分使いきれてなかったり使い方がわからないというようなことも多いんです。そこで、どのように使い指導するのかをここで学べるようになっています。
子どもたちの活動をどのように引き出すのか、危険を回避するにはどんなサポートをしたらいいのかなどを学んでいきます。実際にやってみないとわからないことがたくさんあるんです。障害のある子どもたちの運動や遊びの支援を専門とするこうした施設を持っている大学は、全国でも珍しいんですよ。
―安井先生の専門分野の一つである「アダプテッド身体活動(アダプテッド・スポーツ)」とはどのような考え方なのでしょう
安井:何かの動きや運動を教える際に、既存のルールや既存の道具に適合しない人たちがいます。その時に「それはルールに合わないからできませんよ」「この道具が使えないからできませんよ」というのではなく、その人にルールや道具を合わせていく、人に環境を適合していくという、というのがアダプテッド身体活動の考え方です。
運動ができない子は見学でいいよ、ではなくて障害があって運動ができない子どもたちこそ楽しく体を動かして運動が好きになることが必要なんじゃないか、それは権利じゃないか、そういう考え方が世界的に広がっています。様々な人にあわせて適合する「様々なアダプター」を作っていくんです。多様なアダプターをどう作るのかを考え、私たち自身がアダプター役になっていく。そう考えるとわかりやすいかなと思いますね。
―パラリンピックの取材をずっと続けているそうですね
安井:はい、20数年前から毎回現地に取材に行っています。世界が変わってきたのをすごく感じますね。昔は障害のある方のスポーツや身体活動というのは、少しマイナーというか観客も少なかったんです。それが、アダプテッドの考え方が広がり障害のある方に用具やルールなど様々なものを合わせていくと、今までできないと思われていた方が実はものすごいパフォーマンスを発揮する。それを目の当たりにした時に、ある種、自分自身の人生観なり、あるいは社会観というものが覆されていく。そこに世界中の人たちが気が付き始めて、パラリンピックの注目度は非常に高まっていますよね。
―持続可能な社会の実現に対する本校の役割をどのように考えていらっしゃいますか
安井:教育の柱というのは、人との関わりの中で自分ができることと相手ができることをすり合わせていくということだと思うんですね。自分自身を伸ばしながら周りと関わり、周りにそれが影響しあって、例えば子どもたちも成長していく。その成長の姿を見て喜び、また自身が成長していく相互作用のようなものが教育の根幹だと思うんです。本校が今後培っていく、育てていくべき人材はそういう人材です。本校だからこそ、人との関わりということを重要視しながら社会と繋がっていく学生たちを育てていけると思っています。