旭川校 板谷先生インタビュー
旭川校 芸術・保健体育教育専攻保健体育分野
板谷 厚 教授
専門分野:スポーツ科学、体育、身体教育学、栄養学、健康科学、神経科学一般、神経科学一般、運動学、体育学、体力学 (キーワード:運動制御、運動学習、運動習熟、発育発達)
研究内容:熟練した運動の特徴、運動の発達、学習や習熟の過程および練習やトレーニングの効果を運動学的、バイオメカニクス的、神経科学的な手法を用いて明らかにする
―運動学という分野ではどのようなことを研究したり学んだりするのでしょう
板谷:実は色々な分野で色々な運動学があるんです。例えば体育分野だと、人にどうやって運動を教えたら上手になるかというような研究をしますし、リハビリテーション分野で人の関節の動きを研究するようことも運動学です。ロボットをどうやって動かすかという視点での運動学もありますね。このように運動学と一言で言っても多岐にわたり、研究をしている人もすごく幅が広くて、お医者さんもいれば僕らみたいに体育分野の人もいる。
僕は、運動がどういうふうにできるようになっていくのかとか、どんな練習をしたら運動ができるようになるのかとか、「できない運動ができるようになる」ということを研究の中心にしています。
―先生が運動学に取り組んだきっかけを教えてください
板谷:実は僕はそんなに運動が得意じゃないんですよ。体育の授業だとみんなの足を引っ張っちゃうような子どもだったんです。でも、上手くなりたいという気持ちは当然あって、そういう葛藤の中で中学3年生の時にサッカーをやったんですね。
足を使う競技がどうにも苦手で、僕がボールに触るとみんなの迷惑になるからと思って、その授業時間中にボールに1回も触らないようにしようと目標を立てて、ひたすらボールの反対側に走って行ったんです。そうやって、今日もボールに触れなかった、よくやったと言い聞かせて自分を慰めていたんですけど(笑)。そしたらある時先生に呼ばれて、お前はいつもいいとこにいるな、お前にみんながボールを出せばチャンスになるのにと言われ、この先生何もわかっていないなと(笑)。多分たまたま本当にいいところにいたんでしょうけれど、僕としてはすごい複雑でしたよね。上手になりたいけどできないからボールから逃げ回っていただけなのに、人が見ればいいとこにいる。僕は体育で5がついたことはなかったんですが、その時初めて5が付いて、ますます学校の体育って何なのかがわからなくなりました。
そんな経験から、どうして僕は運動ができないんだろう、どうしたらできるんだろうという興味が湧いて、きっとそんな思いが根深く残っていて今の研究につながっているのかなと思います。
―学生さんたちは運動が得意な人が多いんですか?
板谷:運動が好きで何かスポーツをやってきた学生は多いですね。でももちろん、それぞれ競技の壁にぶつかったり、何かしら課題を持っていますよね。
ーそんな悩みや課題があるから将来教える立場になった時、運動が苦手な子どもたちの気持ちがわかるということもありますよね。
板谷:そうであってほしいと思いますね。子どもは一人一人得意なところや苦手なところも違えば、やってきた運動も違うので、どの子も同じように杓子定規に「これをやったらできるようになる」という方法はありません。一人一人を見て、その子に合わせて言葉がけや手立てを考え取り組んで欲しいんです。少なくとも僕は学生たちよりそういう子どもたちの気持ちがわかるので、授業ではそんなことを伝えていますね。
―地域と連携した取り組みもされていますね。
板谷:そうですね。例えば地域の保育園から相談を受けまして、冬場の園児たちの運動不足解消に効果のある運動づくりなどを行なっています。音楽に合わせて楽しく体を動かす体操を考えて保育園で実行してもらって、その効果を測定しました。高齢者の健康増進のための運動サポートなども依頼がありますね。そんな時はもちろん学生も地域に出向き、一緒に取り組むんですが、学生との取り組みは地域の方にとても喜ばれますね。
―持続可能な社会の実現に対する先生のお考えをお聞かせください
板谷:2022年度には本校の附属幼稚園との共同研究で冒険遊びをやってみたんです。大人が見ると少し危なっかしく感じる遊びのセットを作って、その中で子どもたちがどのような行動をするのかを観察しました。この調査では、冒険遊びを積極的に行う子どもたちは、賢くて強いという傾向があることがわかりました。
今は冒険遊びや少し危険を伴う遊びは排除されてしまう風潮がありますよね。怪我をしないように、とにかく安全に安全にと。でも、本当に持続可能な社会をつくる「質の高い教育」とはなんなのか、子どもたちがチャレンジする機会、少しリスクはあるけれどもその先の将来を見据えると必要な経験や遊びというようなことを考えていかないと、日本の社会は先細りしてしまうのではと危惧しています。
ただ僕自身、そのために具体的にどうしたらいいかはまだまだ見えていないのが現状です。そのためには地道にデータを取り続け、学生たちと一緒に考え続けていきたいと思っています。
―学生や、本校を目指す人たちにメッセージをお願いします
板谷:とにかく「教えたい」っていう熱意を持ってほしいなと思いますね。僕は30代半ばで大学院に行くぐらいちょっとぼんやり過ごしてきたんですが(笑)、大学院時代に僕のことをとてもかわいがってくれた先生が『ところで、君は何をしたいんだ』って聞いてくれたんです。その時にとっさに出たのが『僕、教えたいんです。』という言葉でした。今僕はこの仕事が天職だと思っています。ここには体育が好きな人が来ると思いますが、体育を教えたいという思いがあったら、それを突き詰めて欲しいと思いますね。